『女性であることはハンデではない、むしろアドバンテージ』 女性消化器外科医 河野 恵美子医師インタビュー①

2016年にはテレビ「VSスーパードクター」にも出演された、女性消化器外科医のパイオニア、河野 恵美子医師に女性の働き方についてお聞きしました。

インタビュアーは、「多動ナース」として様々な活動をされている、平岡史衣さん(以下:ふうみん)と看護師の岸田敬子さんです。

河野先生

高槻赤十字病院 消化器外科 河野恵美子先生

インタビューは大変盛り上がり、幸運なことに沢山お話を伺うことができたため、2部構成になっています。

①では、河野先生のキャリアについて、②では女性が仕事と育児を両立することや看護師と医師との職場での連携についてインタビューしています。

看護学生時代に遭遇した大事故が転機に

ふうみん

河野先生が始めに看護師になったきっかけを教えて下さい。

河野先生:私は高校時代から将来自立して生きていける職業に就きたいと思っていました。しかし、それが何なのかわからず、漠然と過ごしていました。

いざ進路を選択する段階で、どうしてよいかわからず悩んでいたところ、高校時代の親友に看護師になることを勧められ、なんとなく看護学部に入学することになりました。

後で聞くと、親友のお父さんが病気の際に看護師と接して、良い仕事だと思ったから勧めたのだそうです。

看護学部へ入学後すぐに、看護師を志した動機を先生に聞かれ、皆が立派な理由を答えているのに、なんとなくで選んだのではっきりとした理由を答えられず、どうしようかと焦ったことを覚えています。

2年生になり、基礎看護学の実習で外科の現場にでました。たまたま手術室の実習でレジデントの先生に吸引し管を渡され、助手の仕事をさせて頂きました。その際、外科医の方が自分には向いているのではないかと直感的に思いました。

その実習期間中に瀕死の交通事故に合い、4か月入院し3度手術を受ける経験をしました。その時、初めて死を自分の身近にあるものとして実感しました。

思ったより人生はあっけなく終わるのだ、と。

生かされた人生、世の中の役に立つために私は何をすれば良いのか悩みました。結果、患者として壮絶な経験を持つ者が看護師になり、さらに医師になれば素晴らしい医療ができるのではないかと思いました。

短い期間ではありましたが看護師としての研鑽も積ませていただきました。その時の経験は自分の医療人としての姿勢に大きな影響を与えていると思います。つまり、私の医療人の原点は看護であると。

改めて今振り返ってみると、自分の中で交通事故が非常に大きな転機になっているように思います。

ふうみん

もし交通事故に遭ってなかったらどうなっていたのでしょう?

河野先生:パイロットになっていたかもしれませんね笑。当時女性のパイロットは少なかったですし、憧れていましたから。

ふうみん

違った立場に立たされた経験が絡み合うことで、河野先生独自の視野の働き方が形成されてきたように感じます。

河野先生:でも、経験してきたのは医療分野だけですので、自身ではまだまだ視野が狭いと感じています。

看護の上司がMBAを取得し、よく経営の話をきかせてくれました。その話が非常に面白く、20代からMBA資格を取得したいと思っていました。特に最近は、お仕事で経営者の方や企業と関わることも増えてきたこともあり、MBA熱が再燃しています。

企業の理論で考えないとビジネスは成功しません。それと医療福祉分野とは全く違った視点を持った方が多いので非常に面白いなと感じています。

女性であることはハンデではなく、アドバンテージ

河野先生:外科の世界では、育児をしながら外科職務を継続するのはマイノリティです。

今まで勤務してきた職場では育児と外科職務を両立している女性医師は誰もいませんでした。外科では、24時間365日働けなければ主治医になれない、執刀をしてはいけない、という暗黙のルールがあったように思います。

男性は3、4年の海外留学で勉強のために臨床現場を離れることがありますが、女性が子育てのために職場を3、4年離れると、そのあとは仕事に復帰することは非常に困難です。

私が復帰した際も非常にハードルが高く、周囲にも子育てしながら急性期病院で活躍する消化器外科医はいませんでした。

ロールモデルは存在せず、このまま外科医を継続できるのかと強く思い悩みました。

しかし、ある時、非常に重要なことに気が付きました。

物事を逆から見てみると、育児をしながら外科職務を継続するということは多くの外科医が経験していないので、女性目線で仕事をすれば、誰もやっていない「オンリーワン」の仕事ができるのではないかと思いました。

女性であることはハンデではなく、むしろアドバンテージなんだと気付いたのです。

これは目からうろこでした。

 

調べてみると、10年以上、外科学会の新規入会者の女性割合は20%前後で推移しています。女性外科医がいなければ外科は衰退してしまいます。

女性であることがアドバンテージであると気づいてからは、徹底して女性目線での仕事をしてきました。

ふうみん

消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGISWomen)では、どんな活動をされているのですか?

河野先生:はい。育児支援を受けている約9年の間に、出産や育児を契機にやめてしまった外科医、家庭と仕事の両立が困難で続けられなかった外科医を目の当たりにし、非常に強いショックを受けました。

続けたいと願っているのに、日本一の育児支援制度といわれている病院でさえもなぜ継続できないのか….

もう二度とこのように悲しむ女性外科医を見たくないと思い、2008年の外科学会から毎年壇上に立ち続け、女性外科医の環境改善の必要性を訴えてまいりました。

2015年にAEGIS-Women設立に至りました。
AEGIS
WomenではCovidien Japanと共催で今まで年3回外科の学会で「キャリアアップ10ミニッツセミナー」を開催させていただいております。また、今年は世界で初めて託児所付きの腹腔鏡手術手技セミナーを1泊2日で開催させていただき大好評でした。

小学校のお子様にはキッズセミナーを行い、外科の仕事に興味をもっていただくだけでなく、母親の仕事というものも理解していただきました。

11月の臨床外科学会ではジョンソンエンドジョンソン社と共催で内視鏡結紮縫合ハンズオンセミナーを開催する予定です。また今後は日本ベクトン・ディッキンソン社とコラボ企画の打ち合わせを行う予定ですし、いろいろ発展的なことができればと思っています。

また、来年の託児所付きの腹腔鏡手術手技セミナーに子供を連れて参加したいという男性からの申し込みがありました。

ふうみん

仕事というと、会社で、あるいは組織で働くことだと思う方も多いですが、育児も大切な社会貢献のための「仕事」だと我々は考えています。母親であることを職場で活かすことができたと感じた経験はありますか?

河野先生:育児を通じて成長することができ、人間としての幅も広がります。医療を仕事にしていると、肩書きや職種を超えて「人間対人間」として患者に接する時に子育ての経験は確実にプラスになると感じています。

専業主婦の奥様を持つ外科医の子供さんは、優秀な進学校に行っていますが、私は自分のことが精一杯で子供の勉強
にまで手が回りません。息子は地頭が良いなあと思うことがしばしばあるので、彼のその優秀さを引き出せなくて本当に悪いなあと思います。

ただ今の時期は勉強以外にも大切なことをたくさん学ぶ時期でもありますので、素直ないい子に育ってくれてよしとしようと思っています。

続ければいつかそれは「普通」になる

河野先生:子供を育てることは、仕事やキャリアにおいて、女性であることと同様に、決してハンデではありません。むしろ、アドバンテージなんです。

例えば、私は子供が小さい頃に病院に連れて行き、一緒に回診に回っていました。

患者さんも「ママは私たちを救ってくれたのよ」と子供に私の仕事のことを話してくれますし、患者さんも仕事を頑張っているママとして私を見てくれるようになりました。結果、子供も私の仕事を理解するようになりましたし、患者さんも業務時間外の時間を尊重してくれるようになりました。

始めは同僚から反発もありましたが、「これが普通になるまでしつこく続けよう」と思いました。そうやって続けていると、それはいつしか「普通で当たり前」になっていくんです。

ふうみん

育児をする女性医師が仕事と家庭を両立するために、家庭においてはどんな工夫が必要だと思いますか?

河野先生:どんな男性と結婚するかは非常に大切だと思います。私は夫に「外科の仕事を続けさせてくれない人とは結婚できません」と結婚する前から言っていました。

夫からは2つのことを言われました。1つは仕事はしてもいいが、息子が悲しむ働き方はしないこと、2つめは感謝の気持ちは思っているだけではなく形にすること。夫はいつでも協力的で、本当に感謝しています。

ふうみん

女性医師の職場で現状感じている課題はどんな点でしょうか?

河野先生:特に外科は、24時間365日働くのが当たり前、主治医が責任持っていつでも対応し、それができなければ執刀するなという雰囲気や休むことを悪とする風潮があります。

ですので、土日もスタッフ全員で回診にまわるというのも当たり前の光景です。

これをやっている限り、いつまで経っても問題は解決されないということに、そろそろ気が付かないといけないと思います。最近の若い世代は仕事も家庭も大切にしたいという価値観をもっている人が増えています。

ですので、それを実現できない外科は素晴らしい仕事とわかっていても敬遠される傾向にあります。

これからは主治医制ではなくチーム制にし、男性にも自分の時間や家族との時間をもって頂くようにして、効率よ
く仕事をまわしていけるようになると女性医師の問題はかなり解決されると思います。

それと、教育システムを変えていく必要があると思います。

今までの「現場で見て学ぶ」という通り一辺倒の方法では時間的・空間的制限のある女性外科医を育てることは難しいです。

ある技術を学ぶのに国内留学をする医師も多いのですが、そういったことも子供がいるとなかなかできません。じゃあ、女性外科医の手術スキルが低くてもいいの?という問題になっていきます。

今後ますます女性医師の割合は増えていくことが予測されますが、技術力が低いと外科全体のレベル低下につながります。私自身はライザップのような短期間で結果にコミットする「ライザップサージェリー」つまり新しくて斬新的な技術力向上のプログラムが必要だと感じています。

時代は確実に変わってきている

編集者:私は、河野先生のお話をお聞きしていると、日本の「空気の重たさ」を感じました。

日本は「侘び・寂び」の文化といわれ、微妙な「空気」を読む習慣があります。(実在のない世間の正体はこの空気だ、と言われていたりします。)

非常に繊細で素晴らしい文化ですが、一方でそれが行き過ぎてしまうと、空気を読むがゆえに、「職場に子供を連れて行くと迷惑だ」「患者の求めにいつでも駆けつけられない医師は失格だ」というような偏った事実の解釈が暗黙のうちに、まさに「空気」のように周囲に浸透してしまうことがあります。

AEGIS‐Womenで男性が子供を連れて研修に参加していたことが嬉しかった、という話をお聞きして、河野先生は確実に「時代の空気」が変わってきている実感を持たれたのではないでしょうか。

女性の働き方を変えていくときに、決して女性だけが問題なのではありません。これは声を大にして言いたいことです。

周りの環境や社会の漠然とした「重たい空気」、つまり女性の周りにいる男性など、女性以外のものが大きく変わっていかなければなりません。

とはいえ、他者にばかり責任を転嫁していてもなかなか話は進まないのかもしれません。

河野先生は、女医が仕事において働きやすい環境を得るためには、女性医師の確固とした技術と知識が必要だとおっしゃっており、それを支援するために積極的にセミナーや研修会を行っておられます。

私は、こういったところに河野先生の働き方改革の本質があるのではないかと感じました。

女性がより働きやすい環境を作るために、まず、女性自身が頑張る。そして、その努力が認められ、牽引されるように周りも変わっていく。

「女性外科医として家庭を両立させるキャリアの道を築き、後続が希望を持てるようなロールモデルになること。」

河野先生が行っておられる女性の働き方改革の活動は、決して女性だけのものではなく、周りも巻き込んで、女性と一緒に、男性も社会全体も次のステップに成長させてくれる素晴らしい取り組みです。

人生は十人十色。働き方も同じく十人十色です。正解はありません。

河野先生が不慮の事故に遭ったことでキャリアの転機になったように、各々の人生のストーリーが強く仕事や生き方に反映されることが、その人にとってのキャリアの成功なのではないかと思いました。

 

次回は看護師の岸田さんのインタビューです。

自身が家庭と仕事を両立させてきた体験を河野先生に色々とお聞きしています。お楽しみに!

 

【今回インタビューさせた頂いた先生】

河野先生

●河野恵美子(高槻赤十字病院)

消化器女性医師の活躍を応援する会ホームページ(AEGISWomen:Association for Emprowerment of Women Gastrointestinal Surgeons)

河野恵美子(コウノエミコ)twitter