「人を動かす」ために必須の3つの要素とは?
目次
社会生活を送る私たちは、常にどこでも人と協力し、協働してあらゆる活動を行なっています。そこで、今回は人と一緒に何かをするときに必須になる「人を動かすための要素3つ」をご紹介します。
キング牧師の”I have a dream”
いきなりですが、私が大好きなキング牧師の「”I have a dream”(私には夢がある)」の演説をご存知でしょうか。
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(当時34歳)は、アメリカにおける人種差別撤廃を求め、そのための活動に生涯を捧げました。
1963年8月28日、首都ワシントンにおいて、リンカーンの奴隷解放宣言100年を記念する大集会(参加者約20万人!)を企画した際に、リンカーン記念堂の前で有名な“I Have a Dream”(私には夢がある)を含む演説を行い、人種差別の撤廃を訴え、広く共感を呼びました。
私は、この演説を高校の英語の教科書で読んだ記憶がありますが、大人になってから改めて見ると「この演説には人を動かす全ての要素が詰まっている」と感動したものです。
【キング牧師の演説“I Have a Dream”(私には夢がある)の有名な一節】
・ I have a dream,that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.
I have a dream,today.
(和訳)私には夢があります。いつの日か、私の4人の可愛い子供たちが、肌の色ではなく彼らの人柄の中身で評価される国に住むようになることです。
今、私には夢がある。
※演説の全文(英+和訳)は下リンクのブログ記事に掲載されています。文章としてもとても素晴らしい内容(20世紀の名演説の1つと讃えられています。)なので、ぜひ読んでみて下さい。
実際に、この演説を期に、一気にアメリカで人種差別撤廃運動の世論が加熱し、1964年7月2日に公民権法(Civil Rights Act:アメリカ合衆国内において人種差別を禁ずる法律。)が制されました。
つまり、歴史上、かなり長く続いた人種差別を終わらせるほど、熱狂的に多くの人の心を動かした演説がこの”I have a dream”なのです。
人の心は何で動くのか?
この動画を見た後に考えてみて欲しいのですが、一体なにが人の心を動かすのでしょうか?この演説のなにが多くの人の心を動かし、人種差別撤廃運動の一大ムーブメントを起こしたと思いますか?
社会的生物である私たちは常に、人と協働して生活を行なっています。
4、5歳の小さい子供がいる家庭の母であれば、毎日生活が円滑に進むように子供に協力を依頼することが必要でしょうし、会社で働いても、地域で活動をしても、何をしていても、常にどこでも「人と一緒に動く」という行動が必須なはずです。
他人に気持ちよく動いてもらうことができる人は、間違いなく社会的な問題が少なく、人生がより楽しく、より幸福です。でも、実際にどうすれば良いのか?
「人を動かす」ことについてあまり語られることはありません。しかし、実は、人を動かす上で重要な要素について、すでに2千年以上も前に人類は答えを得ています。
説得、納得、共感
まず、人に協力を仰ぐ際に取る、(社会的な)人の基本的な行動について説明します。
何か人の協力が必要なとき、まずは「説得」という形を取ると思います。
しかし、説得で動かされた人は、あくまで強制的に仕方なくというニュアンスが強く、本来のパフォーマンスを発揮することはできないであろうことが容易に想像できます。
次の段階、つまり、よりお互いに協力的な関係性を築きたい場合、人は説得ではなく、相手を「納得」させようとします。説得が「頭で理解した」状態であるのに対して、納得は「腑に落ちた」状態、つまり「体で理解した」状態です。
より親身になって協力してくれるだろうと推測されます。
さらに、頭でも体でもなく、人の「心」を動かしたい場合、相手の「共感」という感情に訴え掛けようとするかもしれません。共感とは、読んで字のごとく、”共に感じること”、つまり心を1つにすることと等しいのです。
人に本当に協力を仰ぎたい場合、相手に「共感」を感じさせることが重要になってくることがなんとなくご理解頂けるかと思います。
ロゴス・エトス・パトス
では、人の共感をどのようにして得るのか?
古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、人を動かし、共感を得るためには、ロゴス・エトス・パトスの3つの要素が必要だと説いています。
ロゴス
ロゴスとは、ロジックのこと。つまり、理屈や論理のことです。そもそも、何か相手に協力を依頼した内容が理に適っており、論理が破綻していないことが大前提です。
しかし、ロゴスだけではとても人を動かすことはできません。
ロゴスのみを強調した言葉では、相手は「言いくるめられた」と感じ、その場ではあなたに従うかもしれませんが、その場を離れてまであなたに協力する態度を示すことはないでしょう。むしろ、打ち負かされたと感じ、恨むような気持ちを持っているかもしれません。
つまり、人は論理や理屈だけでは動かないのです。それを2千年以上も前にアリストテレスは悟っています。
エトス
エトスとは、エシックス、つまり倫理のことです。論理だけではなく、倫理的に、道徳的に正しいことでなければ、人の共感を得ることはできません。人は社会的に良いこと、誰かのためになると思うからこそ「ひと肌脱ごう」と心から思える生き物なのです。
パトス
パトスとは、パッションのことで、情熱です。上のキング牧師の演説を聞けば、すぐにパッションとは何か理解できると思います。
演説の中でキング牧師は、身振り手振りを交え、ここぞという場面で動作を早め、大きな声で、少しうわずったような調子で”I have a dream,today!”と何度も叫びます。
納得とは腑に落ちた状態(体で理解した)だと上述しましたが、体どころではなく、自分の心の奥底まで落ちた考えや言葉(心で理解した)を他者に向ける時、初めて、パトス(情熱)が相手に伝わります。
情熱を持った言葉、つまり自分が心底信じ、思い入れを持って放つ言葉は熱を持ち、相手を酔わせ、動かします。
まとめ
「巨人の肩に乗る」
これは過去の偉人達の見解や知識を利用して世界を眺めることで、より世界の遠くまで理解見ることができる、という意味の言葉です。
私たち人間が悩むことは、長い歴史を経てもさほど変わりません。あなたや私と同じように、すでに誰かが同じ問題に行き詰まり、悩み抜き、かなり的確な答えを得ていることがほとんどです。
「人を動かす」ために必要なことは、すでに2千年以上前にアリストテレスがその極意を発見しています。
ロゴス、エトス、パトスが揃った時、人は動きます。
つまり、論理的であり、道徳的であり、情熱を持った言葉は人を動かすのです。
特に管理職やマネジメントの業務をされている方は知っておいて損はないと思います。
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