INTERVIEW
インタビュー
『誰でも仕事と育児が両立できる環境を作りたい』女性消化器外科医 河野 恵美子医師インタビュー②
目次
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今回は、女性消化器外科医 河野恵美子医師インタビュー2記事目です。
インタビュアーは、ママ看護師の岸田さん。
同じ「母親」という視点から、”女性の育児と仕事の両立”についての悩みを河野医師にお聞きしました。
また、チーム医療に欠かせない、医師と看護師との職場での関わりについても言及されています。
・インタビューさせて頂いた方
高槻赤十字病院 女性消化器外科医 河野恵美子医師
※前回のインタビュー記事はこちら🔽
「女性であることはハンデではなく、アドバンテージ」女性消化器外科医 河野恵美子医師インタビュー①
育児に答えはない、見えてくるもの。
岸田さん:私の子供が思春期の頃、仕事で忙しくしている私を子供がどんな風に見ているのか非常に気になったことがありました。オムツを変えるなどの物理的な育児ではなく、私の仕事のことを子供はどう捉えているのか、心理的な育児の面で非常に悩んだのです。
河野医師はその点をどのようにお考えですか?
河野医師:”育児は母親だけがしなければいけないもの”とは全く思っていません。事実、私の家庭では、夫の方が家事育児を行っていることが多いくらいです。
子供には、真剣に仕事をしている背中を見せつつ、愛情を持って関わっていけば、仕事と育児の両立についても理解を示してくれると思います。
育児に答えはなく、見えてくるものだと考えています。
これからの女性外科医の働き方
岸田さん:育児と同様に、キャリア形成に関しても子育ての時期は悩んだのですが、若い女性外科医にとって、新しいキャリアモデルの一つが河野医師の働き方ではないかと感じています。
河野医師は、これからの女性外科医の働き方に関してどのようにお考えですか?
河野医師:私の女性外科医に関連する活動を通して、若い女性医師たちが「私も河野医師のように仕事も家庭も両立できる!」と思って頑張って欲しいと願っています。
しかし、一方で研修医からは、
「河野医師はスーパーウーマンで、河野医師だから出来るのだと思います。私には無理です…」と言われることがあり、それを聞くたびに自分もまだまだだなぁと感じます。
従来の女性外科医のキャリア像として、男性顔負けでバリバリ仕事を頑張るという、いわゆる「キャリアウーマン」の姿があると思います。それはそれですごいのですが、仕事も家庭も両立したいという価値観を強く持つ今の若手は「自分の生き方とは違う」と思ってしまう。
女性として育児を楽しみながら仕事も頑張っている姿を見せることで、違う生き方もあるということを示したいと思います。
そのためには、今までにある手術手技を習得するのに10年掛かっていたようなことを半分以下に短縮できるような取り組みが必要だと思っており、実際に企業とそのような技術革新ができないか相談したりしています。
敷居を下げるというか、「誰でも育児と外科職務の両立ができる」という環境にしていきたいと考えています。
周りに理解を得ることで皆がWINに
岸田さん:育児と仕事の両立の面で、医師は患者さんに時間外の対応を求められることも多いと思うのですが、その点に関してどのようにお考えですか?
河野医師:私の場合、患者さんに原則、業務時間内の面談をお願いしています。どうしても時間外でという場合は当直の時にお願いしています。ただし、患者さんの具合が悪い場合は例外で、その時は夫と子供を説得してでも患者さんに付き添うようにしています。
また、患者と関わる時には主治医制ではなく、チーム制で物事を進めています。患者さんにも「主治医1人で見るよりもみんなの目があった方がより良い医療ができます」とお伝えしており、納得して頂いています。今までもそれでクレームが出たことは一度もありません。
これは、女性医師だけでなく、男性医師にとっても良いことですよね。
男女関わらず、疲弊した医師に診てもらっても良いことがありません。リスクの面や、集中力の面でも決して望ましいことではないと思います。それに自分に余裕がなければ人にも優しくなれないですよね。
一般企業でもそうだと思いますが、長時間仕事をする人が評価される風潮は未だに根強く残っています。実際は作業を効率化すれば残業しなくても帰れることも多いので、作業効率で評価されればいいのになあと思います。
医師と看護師の職場での連携
岸田さん:残業のお話に付随して、”医師の補助”という面で、看護師の仕事の仕方が、医師の残業問題にも関係していると考えています。緊急に医師の指示が必要な状態なのかどうか?看護師が患者の症状から深く読み取れないと、医師にも負担を掛けてしまう事もあるのではないかと思います。
河野医師は看護師を経験して医師にキャリアチェンジしたとお聞きしていますが、看護師との連携についてはどうお考えですか?
河野医師:昔はなぜ?なぜ?と考えたものですが、医療分野の合理化・効率化が進み、昔よりも臨床の現場で考えること自体が少なくなっているかもしれません。
でも、看護師には能力が高い人がたくさんいると思っています。もったいないことに、その能力がちゃんと発揮できていないことがあります。看護師がしなくても良い仕事をたくさんしていると思うので、看護師本来の業務にもっと集中してもらえる環境が整えば、職場でよりよい連携ができると思います。
これから医師になりたい学生へ
岸田さん:これから医師になりたい学生に向けて、何かメッセージはありますか?
河野医師:自分に自分で制限を掛けないようにして欲しいと思います。できない理由を並べるのは簡単です。
もちろん、全力を尽くして努力しても、結果的に思い通りにならないことはあります。でも、それは決して失敗ではありません。
結果を出すまで続ければ成功ということになりますし、仮に別の道を選択することになっても、その先に素晴らしいことが待っているかもしれません。
失敗することが終わりではなく、諦めることで終わってしまうのだと思います。
絶対に合格するんだ、自分の思いを果たすんだ、という思いで試験に臨んで、もしダメだとしても、それはそれでまた何か思いもよらない新しい次の道が拓けてくるものだと思います。
自分の思いを強く持って、一生懸命やること。
「できる」と思って取り組むこと。
私は偏差値38から70まで上げて国立の医学部に合格しましたが、失敗したらどうしようとか、ダメだったら看護師に戻ろうなんて全く考えていませんでした。不安さえも感じる余地もないくらい勉強に没頭しました。
女性でキャリアや仕事で悩んでいる人へ
岸田さん:女性の社会進出に伴い、働き方に悩む人が増えています。女性でキャリアや仕事で悩んでいる人へ何かアドバイスはありますか?
河野医師:私も常に悩んでいますし、モヤモヤすることもあります。でも、目的を達成する方法というのは、実は無数にあると思っています。確固たる信念は大切ですが、柔軟な心も必要ですよね。子供がいると思い通りにならないことだらけです。
私の座右の銘は、「蘭心竹生」
純粋で気高く媚びない心を持ち、竹のようにしなやかで折れない….私自身はそんな生き方を目指しています。
人生は誰にとっても一度しかありません。それをどう生きるのか。
仕事に重点をおいても良いし、育児に重点をおいても良い。
それを選んだのなら、それがその人の人生の重要なミッションだと思うのです。
悩んだら動いてみること。動けばきっと何か変わります。
私も今まで八方塞がりに感じることも沢山ありましたが、その中でも不断の努力を続けていれば道は開け、気が付けば問題は解決されていくことが多いと感じています。
岸田さん:大変貴重なお話を頂き、本当にありがとうございました。
多くの選択肢からシンプルな本質を選ぶ
〜【編集部より】〜
働き方が多様化していく昨今、自分の進路で悩むことが増えているように感じます。
日本でも、ちょっと昔は商人の子に生まれたら商人として生きる道しかなかったでしょうし、交通機関も発達していないので、生まれた土地で一生を過ごす人が多かったと思います。
でも、現代では、途中で方向転換して新しいことを始めようが、明日から違う土地に住もうが、基本的に全て自由です。自由であるからこそ、どの道を選べば良いのか悩んでしまいます。
ある意味、選択肢が沢山あるがゆえの「幸せな悩み」なのかもしれませんね。
また、河野医師のお話をお聞きして、働き方や仕事の在り方を変えて行くときに、広い視野を持って相手の立場に寄り添い、周りを巻き込んでいくことが非常に重要なことがよくわかりました。「医師だけが変われば医師の働き方が変わる」ということはありえないのです。
例えば、「いつも主治医にみてもらいたい」といった多くの患者のニーズが、医師の勤務時間の延長を招き、個人としての生活を逼迫させる一要因になっている側面もあります。
一人の医師が担当患者に全責任をもって治療にあたるというより、複数の医師によるチームで患者の治療にあたっているからこそ、24時間安心して療養できるのだという考え方に変わっていける取り組みも、今後重要になってくるのかもしれません。
それは、河野医師が、看護師としての経験を経て医師を目指した経緯もあり、医療は決して医師を頂点としたチームでなく、それぞれの専門性を発揮、尊重しあう「患者中心のチーム」として仕事をするべきと話をされていたことからも伺えます。
あらゆるものが複雑に多様化している昨今、選択肢は沢山有ります。だからこそ、逆説的に、いつでもシンプルに考え、本質を捉える力が重要になってきます。
今後医療がより進化していくためにも、河野医師のように広い視野と柔軟な発想を持ち、いつでも本質に立ち返って現状を見つめることが非常に重要だと感じました。
次回の記事③は、潜在看護師の社会問題に取り組み、採血静注練習キットの販売・普及に奮闘する野見山悟さんと河野医師の対談記事です。
お楽しみに!
・インタビューさせて頂いた方
□河野恵美子(高槻赤十字病院)
・消化器女性医師の活躍を応援する会ホームページ(AEGISーWomen:Association for Emprowerment of Women Gastrointestinal Surgeons)