INTERVIEW
インタビュー
高齢者の「半ケツ」を解消!「半ケツにならないズボン」をチームで作るケアマネージャー
目次
介護の現場や高齢者の方で、ズボンを腰上まで上げられず「半ケツ」状態になってしまっている人をよく見かけます。
小林さんは、ケアマネージャーとして働きながら、「高齢者の半ケツ問題」を解決するため、チームで「半ケツにならないズボン」を開発・販売されています。
今回は、ケアマネージャー歴22年の小林秀子さんが開発した、介護現場に最適なズボン「半ケツにならないズボン」についてお話を伺いました。
インタビューを受けた方
ケアマネージャー歴、なんと22年以上!の小林秀子さん
小林さんの経歴
Q:小林さんの経歴について聞かせてください。
小林さん: 初めは、特別養護老人ホームと老人保健施設の介護職員として5年ほど勤務していました。30年以上前のことです。その後、介護保険が始まり、ケアマネージャーと在宅介護支援センターを兼務するようになりました。そこからケアマネージャーを約22年間やっています。
「半ケツにならないズボン」ができるきっかけ
Q:「半ケツにならないズボン」のアイデアを思いついたきっかけを教えてください。
小林さん:4年ほど前に担当させて頂いた利用者さんで、80歳代の右片麻痺の女性がいらっしゃいました。
普段からずっと半ケツ状態で、トイレの後もズボンが上げられず、息子さんから「何か良いズボンはないか?」と相談を受けたことがきっかけです。
Q:半ケツを解消するために、例えばリハビリの先生に来てもらって本人さんがズボンの上げ下ろしの練習をする、ということも問題解決の方法として考えられると思います。なぜ、ズボンそのものを変えようと思われたのですか?
小林さん;もちろんそういったリハビリもやりましたが、ズボンを上げられるようにはなりませんでした。そこで、ズボンの形に焦点を当てました。身体の変化に合わせてズボンの形を変えてしまおうという発想の転換です。
ズボンをもっと履きやすいものに変えて、それからリハビリでじっくり練習していけば良いと思いました。
開発までの道のりは苦労の連続…もう辞めたい!
Q:ズボンを開発するにあたって、まずはどのようなことに取り組んだのですか?
小林さん:始めなにもかも手探りで、本当に途方にくれていました。
- デザインはどうやってするの?
- 縫製はどうするの?
- どうやって商品化するの?
- そもそも、どんなズボンがあれば喜ばれるの?
などなど、何も分かりませんでした。
私は服飾の素人なので、アイデアはある程度固まっても全く何にもできないという事実を突きつけられました。当然ですが、縫製にもデザインにも専門の技術が必要で、素人がすぐにできることではありません。
Q:そこからどのように商品化まで至ったのでしょうか。
小林さん:本当にラッキーとしかしか言いようがないですが、他のケアマネージャーと協力し、「こんなズボンがあったら良いのに」と周りの人に言っているうちに、「私、縫製できるよ」「型紙を作れる人がいる」など、協力してくれる人が少しづつ現れたんです。
Q:小林さんの想いが伝わったんですね。
小林さん:ありがたいことに、周りの人に恵まれていたんです。 初めはズボンを作るための場所すらもなくて、職場の会議室を借りてみんなで集まって作ったりしていました。
Q:色々と苦労されたんですね・・
小林さん:長年、ケアマネージャーの仕事をしていたことが良かったんだと思います。ケアマネージャーって、いろんな人と話をして、得意な方に力をお借りする仕事ですから。
今考えると「半ケツにならないズボン」もケアマネージャーの仕事と同じ流れで進んでいきました。仕事の合間を縫ってチームで集まり、ああでもない、こうでもない、と話を進めていきました。
なにをするにも、それなりに費用も掛かりますし、もちろん赤字です。正直、途中で「私は、なんでこんなことをやっているんだろう?」と疑問に思うこともありました。
でも、やはり、ズボンを完成させた先にある利用者さんの笑顔を見たい、ケアマネージャーとして地域の問題を解決したい、という思いがあったからこそ、なんとか続けられたんだと思います。
その後、ご縁があり、滋賀報知新聞、中日新聞滋賀版、東京新聞やラジオ番組などで紹介していただくことができました。全国からたくさんの応援の声をいただき、地元だけの問題ではないことがわかりました。多くの方々が同じ悩みを抱えているんです。
ついに完成へ!
Q:その後どうやって制作が進んでいったのでしょうか?
小林さん:初めは、戦中・戦後に履いている人が多かった「もんぺ」を参考にしました。股上がゆったりしていて履きやすいと、利用者さんからヒントをもらいました。
実際に試作品を利用者さんに履いて頂いたところ、「前の股上が長過ぎる」「ゴムがもう少し緩い方が良い」など沢山意見を頂きました。 ここでもケアマネージャーのお仕事のおかげで、介護の現場で様々な人に実際に履いてもらうことができました。
合計で60本以上試作品を作り、ようやく最新版を完成させることができました。
「半ケツにならないズボン」の魅力!
Q:完成した「半ケツにならないズボン」の特徴を教えてください。
小林さん:まず、ズボンの後ろ側、おしりから上の丈が長くなっています。なので、普通に履けば「半ケツ」になりません。また、高齢者や介護の現場で使うことを想定しているので、尿失禁でズボンが濡れても目立たない色(紺、濃グレー)にしています。
さらに、ゴムを緩くし、上げ下げがしやすくなっています。緩すぎると落ちてしまうので、ゴムの長さが調整ができるようになっていて、リハビリパンツを履いている方にもちょうど良いゆとりがあります。
重さにもこだわっていて、非常に軽いので上げ下げが簡単です。丈の長さも55cm60cmから選べます。介護者の手間を省くため、イージケア素材を使い簡単に洗濯でき、すぐに乾きます。
Q:まさに、介護現場の”かゆいところに手が届く”ズボンですね。
小林さん:はい、ケアマネージャー22年の経験を注ぎ込んだ自信作です。
介護の現場ですることは、本人(介護される側)にとっても良いことでなければならないのは当然ですが、それだけではなく、周りの人、家族やヘルパーさん、施設スタッフさんなど介護する側にとっても良い環境を作ることが大切です。
つまり、環境全て、全方位に気を配る必要があり、そういった考え方を元にこのズボンも制作しています。
Q:ケアマネージャーさんを長年されてきたこその「半ケツにならないズボン」ということですね。実際に利用されている方の声はいかがですか?
小林さん:細身で円背の高齢女性を介護している家族さんには、「体に合うズボンがなく、今まで既製品を妥協して履いていた。本当にありがたい」とご意見を頂きました。普段は仕方なくLとかLLのズボンを履いていたそうです。
Q:どんな方にこのズボンを履いて欲しいですか?
小林さん:まず、高齢で円背がある方(背中が曲がっている方)です。円背の方は、市販のズボンを腰まで上げることができません。
実際に健康な方もやってみて欲しいのですが、立った状態で90°近く腰を曲げてズボンを上げる動作をしてみてください。腰が曲がっていることで肩の可動域が制限されるはずです。
しかし、「半ケツにならないズボン」なら、簡単に腰まで上げることができます。手の力が弱くてズボンを上げられない方にもぜひ試して欲しいです。このズボンなら自分で腰までズボンを上げられます。
また、家族の介護をしている方で、介護を楽にしたい方にもぜひ試して欲しいです。
介護している側に余裕が生まれることで、より丁寧な介護ができるようになります。介護している側が楽になることは、とっても良いことなんですよ!
社会から「半ケツ」をなくしたい!
Q:ケアマネージャーさんらしい、色んな方への”配慮”が詰まった素敵なズボンだということが良くわかりました。ぜひもっと多くの方に知って欲しいです。最後に今後の展望を教えてください。
小林さん:ケアマネージャーの仕事は問題解決です。適切なサービスを提供することだけでなく、自分で解決策を作り出してしまうことも時には”アリ”だと思っています。
多様性の時代といわれますが、まだまだ高齢者に適した衣服は少ないと感じます。このズボンが介護業界や高齢者の方々に当たり前に使用されるようになってほしいです。
「歳をとっているから半ケツも仕方がない」と、あきらめなくても良い社会を作りたいです。
体に合う衣服があれば気分も明るくなり、外出も楽しめるようになります。そのためにも、もっとこのズボンを広めていく活動をしていきたいです。
まずは、地元滋賀県の『半ケツ』ゼロを目指しています。そして、日本中の『半ケツ』をゼロにしたいです。
高齢者の衣服の困りごとは他にもたくさんあるので、それぞれの解決策も考えていきたいですね。それがお世話になっている地域や介護業界への恩返しだと思っています。
連絡先
- 「半ケツにならないズボン」を販売しているサイト▶︎https://aiudesign.base.shop/
- お問い合わせ電話番号▶︎050(3552)3399